私の祖母は今年で95歳。
一人で外出はもう出来ないが、呆けも少なく、家の中を掴まりながら一人でゆっくり歩いている。
そんな祖母のベット横には昔から一枚のメモ紙がある。

「口は災いの元 わが身を滅ぼす」
いつ頃書いたかは不明だが、私が記憶している限りだと十年二十年は経っている。
いつも見えるところに、絶対に人の悪口を言わない祖母らしい言葉。

祖母は字を書くことが好きで、「小さい頃は書道は学級で一番だったの。先生によく褒められて、黒板に張り出されたわ。」とよく自慢をしていた。
昔はスーパーのチラシの裏が白いものは大きさを揃えてメモ紙にして取ってあった。いつでもその時の情報や感情を留めておきたかったのであろう。

メモ紙にはテレビショッピングの健康食品の電話番号と体にいいと謳っていた栄養素がよく書いてあった。
結婚祝いにもらった家具には兄弟の名前と日付。
孫の写真の裏には日付と行った場所と一緒に行った人の名前。
とにかくいろいろなものに記録した。

その時の想いが文字となって刻まれる。
自らのために書いた文字も人にやさしく接するための教訓。
事実だけを書いた文字も愛と感謝に満ちていた。
文字を書く、と言う行為の原点に触れた。
文字の美しさは、書こうとする心から始まるのだ。