2017年7月21日、神楽坂に白日居をオープンしました。
六本木稽古場のビルが都市開発の影響で使用できなくなったため、拠点を移動することになりました。
四谷書道教室で五年半、六本木稽古場で三年半、仲間と共に書を学べたこと、心から感謝しています。

「白日居」の屋号は、“余白のある日”から取っています。
道を進んでいくほどに見えないものの大切さを感じるようになりました。
客人を招き、茶を淹れ、書について語り合う。
そんな場所に憧れ、ご縁あった神楽坂で居を構えることとなりました。

内装にあたっては自ら床を剥がし、天井を壊し、壁を建て、塗装することで愛着が持てたことは良かったです。また、設計をする上で白井晟一という人物を知ることもできたのも大きな収穫でした。
白井晟一は建築家で松濤美術館やノアビルの設計。この人の精神を白日居の細部にも取り入れました。

白日居完成に息つく暇もなく、八月末には第四回目となる三蛙会書展が開催され、たくさんの心を使った作品が展示されました。
展示では「白日居」の屋号を掛軸にしました。先日、展示を終えようやく白日居に白日居の軸をかけることができました。

井伊直弼の『茶の湯一会集』のなかで「一期一会」とならんで注目される「独座観念」という言葉があります。茶事が終わって客が帰った後、亭主はただちに片付けを始めるのではなく、一人茶席に戻り、釜の前に座って、お客様は今頃はどこまで帰られただろうか等、思いを馳せながら、今日の茶事はふたたびかえらないことを観念し、一人でお茶も点て頂く、寂獏として打ち語らうものは釜の音のみ、との境地を説いたものです。

一生懸命作り上げたものも形になって出来上がってしまうと、ついつい心が離れがちです。
世の中の大抵のものは作り上げた時間より、作り終わった後の時間の方が長い。
白日居の軸を掛け、関わってくれた全ての人に感謝し、これからのことを考える。
書における独坐観念のひと時は私にとってさらなる決意の瞬間となりました。

皆さんも展示で描いた作品、または稽古で仕上げた作品をもう一度出し、
その文字をゆっくり眺めてみてください。
きっと書いた頃とは違う感情に気づけるはずです。

写真 新井晃平