写真:萩谷潤

人の世は喜び、悲しみ。出会いと別れはつきもの。

月もまた満ちては欠け、光と影のあるもの。

古よりこの道理の前に、為すすべは無し。

ただ願わくば人の長久を。

ただ願わくば遥か遠くにあっても、共にあの月を見ることを。

 

 

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蘇軾 水調歌頭

明月幾時有   明月 幾時より有るや

把酒問青天   酒を把って 青天に問う

不知天上宮闕  不知ず 天上の宮闕

今夕是何年   今夕 是れ何の年ぞ

我欲乗風帰去  我れ 風に乗って去かんと欲す

又恐瓊楼玉宇  又恐れる 瓊楼玉宇

高処不勝寒   高き処は 寒に勝えざらんことを

起舞弄清影   起ちて舞い 清き影と弄る

何似在人間   何ぞ似ばん 人間に在るに

轉朱閣     朱閣に転じ

低綺戸     綺戸に低れ

照無眠     無眠を照らす

不応有恨    応に恨有るべからざるに

何事長向別時圓 何事ぞ 長えに別時に向いて円なり

人有悲歓離合  人には 悲歓離合あり

月有陰晴圓缼  月には 陰晴円欠あり

此事古難全   此事 古より全う難し

但願人長久   但だ願わくは 人長久に

千里共嬋娟   千里 嬋娟を共にせんことを

 

 

明月はいつから出ているのだろうか。

酒杯をあげて天に尋ねたい。

天上の宮殿では今年は何年なのだろうか。

風に乗って天上に行って見たいものだ。

だが天上の大理石や玉の御殿はあんなにも高いのだから、

寒くてとても私には堪えられないだろう。

月の下で踊れば影が私について踊る下界の楽しみを天上では

どうして味わうことができようか。

月光は美しい閣楼をあまねく照らし、

彫刻のある窓から部屋の中までさしこんできて、

眠れない私を照らしている。

月が丸いのは恨むべきではないが、

なぜ人々が離ればなれになって孤独でいる時に、

まん丸くなって団らんを象徴してみせるのだろう。

 

人の世は喜び、悲しみ。出会いと別れはつきもの。

月もまた満ちては欠け、光と影のあるもの。

古よりこの道理の前に、為すすべは無し。

ただ願わくば人の長久を。

ただ願わくば遥か遠くにあっても、共にあの月を見ることを。


写真:萩谷潤